挽歌 ー 世界の涯ては、蝶の夢の中にしかない

Banka/Threnody - The end of the world exists, but only in a butterfly’s dream For trombone solo

蝶が見る夢の内なる世界から、音で描く世界の涯て

 

1.作曲のきっかけとなった夢について
ある日、蝶の夢を見ました。それは「無数の蝶が空に向かって上っていく夢を、蝶が見ている」という自己回帰的な夢でした。これはコロナ禍で、悲劇的な情報に触れ続けていた精神状態が影響していたかもしれません。いずれにしても、この夢には、複雑な感情 ー つまり、不吉な未来への予感、深い哀しみ、絶望、恐れ、そしてなぜかわかりませんが、微かな希望 ー が含まれていると感じました。

 

2.イメージの発展
この夢に触発され、新たな作品(実質的な「レクイエム II」)の作曲に着手しました。そのときから最初のイメージが、新たなさまざまなイメージと絡み合いながら育っていきました。
その中で主なものの一つが、寺山修司が死の8か月前に書いた詩、「懐かしの我が家」でした。そのことを刻印するために、詩の最後の部分をもじって副題としました。こうしたイメージが私の中に「イメージの塊」を形成し、創作の種となりました。

 

3.どのように作曲を進めたか

作曲の作業においては、私はまず自分の内面にやってくる音素材と出会い、向き合い、そのさらに内側に身を置き(もっと言えばイメージの中に一体的な「生命」として入り込み)、その声を聞き、その存在が持つ心や感覚を我がごととして感じることから始めました。そこから、あたかも種が自律的に植物に成長するように、音楽素材が成長し、自らを形成していくことを試みました。つまり意図的に、楽曲の構成や構造を前もって構想することを拒絶し、素材そのものからだけ発想することを試みるのです。「素材の中に構造がある」というハヤ・チェルノヴィンの助言をきっかけに気づかされた、私自身の物心ついてから持ってきた解離的な心の傾向(自分外の対象に意識・感覚が飛んだり乗り移ったりしがちな傾向)と創作活動という2つの軸が交差する点と感じます。そして、こうしたアプローチをとるようになってから、作曲という行為が私自身の命の営みと結びついていると感じるようになりました。

本作品では、次のようなプロセスをたどりました。まず形のない「呼びかけの声」が到来しました ー それはまず私の心に浮かび、次第に形を成していったものでしたー 私がその声に「成って」心の奥底の暗い空間で叫んでいると、やがて別の新しい声が聞こえてきます。それに呼応して、その新しい声に自分を移し換え、その感情を掴もうとします。そして2つの声が関係を紡ぎ始めます......そのようにして、音楽的なプロセスが自ら内面の場において次々と進み始め、あらかじめ規定不可能な形を成していきます。具体的な形成の際には、ミクロ、マクロでも最も数字などを使って必要に応じて構造化を行います。
「稲妻」と内心呼んでいた動機もそのようにして導き出され、分岐したり揺らいだりしながら進化していきました。

 

4. 作品の概要
作品の概要は次のとおりです:
前半は、霧と深淵のような暗い空間の遠くからの呼びかけで始まり、時には稲妻が光り...その後、いくつかの奇妙な展開や枝分かれが続きます。最後のセクションは、異なる要素、つまり蝶のような動きを含む最初の部分の「バリエーション」です。