John Cage: 龍安寺 Ryoanji (トロンボーンとパーカッションによる版)
日常の時間感覚を脱ぎ去り、この作品固有な新たな体験と出会う可能性にご自身を開いてみませんか?
1983年、ジョン・ケージは京都の龍安寺の石庭に触発され、「Ryoanji」という一連の作品の創作を開始しました。ケージは、白砂の上に15個の石が配置された石庭のデザインを音楽的に“移植”しました。同年夏、15個の石を使った図面が作成され、同時期にオーボエのための「Ryoanji」の最初のパートが誕生しました。1983年から1985年にかけて、ケージは声、フルート、コントラバス、そしてトロンボーンのためのパートを追加し、1992年にはチェロのパートを試みましたが未完成に終わりました。
この「Ryoanji」のソロパートは、どの楽器の組み合わせでも演奏可能で、必ずパーカッション(またはオーケストラ)のパートが伴います。各ソロパートは複数の楽章からなり、長方形のシステムに基づいた音楽記譜がされています。ソリストが演奏不可能な部分をテープ録音で補うオプションもあり、この版による演奏の場合は複数のパートが同時に表現されます。
パーカッションは木と金属を組み合わせた複合音をユニゾンで演奏します。演奏はソロパートの約2小節前から始まり、沈黙の間も続き、ソロが停止した後に終わります。音は静かに、しかし前景に配置され、わずかなダイナミクスの変化を持つ「生」を感じさせ、光が変化するように表現されます。
ソリストは庭の石、伴奏は耕された砂を象徴しています。
今回はアコースティックなトロンボーン・ソロのパート+パーカッションによる版を演奏します。トロンボーン版は極度に低いペダル・トーンの音域に特化した、徹底して呪術的な雰囲気を醸し出すフレーズに、恐らく易経をベースに構成されたパーカッションの刻みが「微妙な距離」を取って重なります。
聴き手一人一人の体験は異なることとは思いますが、一つには、例えば徐々に「社会的な時間感覚」が溶解し、非日常の精神空間に没入するような音・空間・時間の感覚変容体験(独特の変性意識状態)が得られ、その中で、自我が無によって押し流されていく瞬間との出会いもあるかもしれません。